梅雨の晴れ間を狙って初めての山へゴー! しかし、山は真っ白なガスと、そしてヒグラシの合唱に包まれていたのでした。
先週に引き続き、また大月へやってきます。今回、目指すのは大月と甲府盆地の境にそびえる笹子雁ガ腹摺山。ロマンチックな名前ですね。高空を渡って行く雁ですらその腹をこするほどの高山、たぶん一万メートルはあるでしょう。登る前から身震いがしてきます。(ホントは1357mです)
大月からバスで登山口直下まで行くことにします。笹子駅から国道20号線を峠の取り付きまで歩いていくのが一般的ですが、今回、一部の隊員から「また、あの道を歩くのやだ」との声が寄せられたため、バスに乗って楽をしようという魂胆です。
駅前のバス乗り場で待つこと30分。めざす新田行きのバスがやってきます。乗り込んだのは我が隊の2人と撮り鉄らしい青年の計3人。そういや中央本線をD51が走ってるんだっけ?なんて思ってたんですが、家に帰って調べたら、201系という、かつて中央線を走っていたオレンジ色の快速電車が回送される日だったようです。
大月駅前のバス停で目当てのバスがくるまで待ちます。新田行きは出発時刻ギリギリになるまでやって来ませんでした。
バスは甲州街道を快調に走っていきます。で、降りるバス停はどこだろう?
なんとなく頭の片隅にあった「追分」で降りれば良いのではないか? 降りたらまだ手前でした。
追分は本社ヶ丸の登山口まで歩いた時に通り過ぎたバス停でした。だから記憶にあったのです。本当はここから2つ先のバス停「新中橋」で降りれば良かったのです。
で、10分ほど歩いて登山口へ到着。
左は本社ヶ丸。今日はこのまま真っすぐ。ところで追分ってのは昔のことばで分岐点、街道の分かれる所って意味です。(たぶん)
なんだかんだ言って結局国道を歩くことに…。
空は曇っている、というよりガスがかかって全体に白っぽい光景です。見回せばどの山も頂上付近がかろうじて分かる程度。登山口には黄色い看板に「この附近に熊出没 注意必要」と立っています。まだ、新しめの看板です。
真剣に引返そうと思いました。
でもこんな時に限って同行の隊員は登る気満々。「熊が出たら怖いよねぇ」なんて言いながら仕度に余念がありません。(いいのか、そんな能天気で?)
薄暗い植林の中へ、意を決して入って行きます。
黄色い看板に「熊が出るよ!引返すなら今だよ!」って書いてあるにもかかわらず支度に余念のない隊員。このあと、この森の中へ入って行くのです。
前夜か明け方に雨が降ったようで道がつるつる滑ります。それに歩きながら熊除けの遠吠えや手拍子が忙しく、ちっとも落ち着きません。杉の植林帯が15分ほど続いた頃、つづら折れの急登が現れ明るい雑木林へかわります。ここを登り切ったところに送電線の鉄塔、No.56の銘板あり。
ちょっと立ち止まり水分補給です。この先また杉林に戻った山中をさらに登って行きます。
登り出して1時間ほどの頃、気がつけば杉林はブナのようなダケカンバのような雑木へと変わっています。周囲からヒグラシのケケケケケケケヶヶヶ…と、なんともいえない風情のある鳴き声。(カナカナカナカナ…とは聞こえないですよ)
左の谷からは涼しげな沢の音も聞こえてきます。
これで気分も爽快になり、いよいよ足取りも軽く登っていった…、わけは無く、やっぱり相変わらずの急登に喘いでいます。先週も登っているとはいえ、それまでの四ヶ月のブランクが大きいのか、ちっとも身体が登りに慣れません。
このまま頂上までこんな登りが続いたんでは、心臓が破裂してしまうわ! いよいよそう思った頃、いきなり、道が馬の背のような平坦で狭い稜線になります。ここは西からの風が強く涼しいのなんの。ああ、助かったと、やっと一息つけます。
杉の植林帯。ひたすら続く登りに早くも音を上げます。
周囲が雑木林となる頃、振り返れば本社ヶ丸方向が靄を通してぼんやりと。
この馬の背を過ぎても、蝉の大合唱を聞きながらの登りはまだ続くのですが、ここで問題が発生しました。
トム・ハンクスならきっとこう言うでしょう "Houston, we've got a problem here." と。
しかるに、20mほど先を行く我が隊員が発したのは、
「ヒルってどれくらいの大きさ?」でした。
私はヒューストンでもないし、登り続きで草臥れていたのでいい加減に答えます。
「10cmくらいじゃね?」
「じゃあこれヒルだ」
「えええーっ!」
この山域にはいないはずなのに…。いきなり背中がゾゾゾーっとして、隊員のいた場所をヒューっと通り過ぎます。そんな余力が残っていたのか!ってくらいに。
(このあと、ヒューっと通り過ぎてその先の穴にストンと落ちたんだろ?って続くと思ったそこのあなた、私はそんな甘いギャグは飛ばしません)
隊員の報告は続きます。
「10cmくらいで、黒っぽくてぬるっとしてて、頭が釘を潰したようなカタチしてた」
尚更この場を早く離脱したくてズンズン登って行きますが、何だか靴の中がムズムズするような。ま、まさかっ、靴の中に入ってきたんじゃないか?と気になって仕方ないし…。(ヒルは靴の中や服の中にたやすく侵入し、しかも噛まれてもなかなか気づかないそうです)
ガスで真っ白だわ、熊はいるわ、道は急だわ、おまけにヒルまでとは。今度こそ本当に引返したくなりました。でも半分以上は登ってたのでやっぱり頂上を目指します。(この幼稚な理論はなんだ!)
家に帰って調べたら、隊員が見つけたのは「クロイロコウガイビル」という生き物で、ヒルと名がつくものの吸血する奴とは全然、出自も種類も違う、(人には)まったく無害なかわいい奴でした。
心配は全くの杞憂だったのです。
梯子のような、謎の工作物。こりゃ一体なんだ?誰かのビバーク跡?
心配は杞憂でしたが、道は急になり、時間的にも高度的にもそろそろだよなと思いはじめたころ、目の前に金網のフェンスが出現。(そこのあなた、ついて来てますか?)
なんじゃこりゃ?と見上げればでっかい看板のような反射板のような物体。家に帰ってまたまた調べてみたら、通信に使われるマイクロ波の山間部での電波障害を回避する反射板なのでした。
ここだけ木が切り払われ、麓の方を見透かすことができます。振り返れば結構登ってきたなぁて感じの高度感。よぉし、あとひと頑張りだとおもって進めば、そこはもう頂上だったのです。
うぉぉぉー、こんなに登ってきたんだぁぁぁ
反射板のすぐ先で撮ったのですが、このほんの先がもう頂上でした。今日の隊員は常に調子よく登っていました。
見晴らしが利かないせいか、なんとなく狭く感じる頂上です。苦労して登って来たのにね。
くだりは、あっという間に鉄塔まで戻って来ました。晴れると思った空も、終始こんな感じでした。
頂上は突起ですが、残念なことに頂上について特記すべきことはありません…。(シーン)
細長くやや狭い場所に幾つかの標識と標柱、たくさんの虫、そして白いガス。写真を撮り、喉をうるおし、持ってきた果物をつまみ、そして下山です。
米沢山、大鹿峠を通って甲斐大和駅へ降りるつもりでしたが、ガスは晴れる気配もなく、来た道を引き返すことにします。ここへはまた、天気の良い日にやって来よう。
きょうは大月駅で、吉田うどんを食べてから帰ることにしましょう。
(2010.6.22 新隊長n記す)