今回の山行を振り返って、果たしてこれで良かったのだろうか?
それよりも、根本的にこれは登山だったのだろうか?
と、何だかすっきりしない気持ちは残りました。それでも楽しかったことだけは間違いありません。
当日朝のことですが、あまりの湿疹のかゆさに我慢できなくなった隊員nが、白色ワセリンを塗るのに手間取り、いきなり出発予定時刻を20分過ぎてしまいます。
新宿駅についた段階で乗る予定だった京王線の電車は既に出たあと。ふと思いたってスーパーあずさ1号の指定席の予約具合を調べてみればまだ残席があります。ここでついふらふらっと新宿〜八王子までの指定券を購入してしまいます。
わずか29分で着く八王子で各停に乗り継ぎ二つ先の高尾へ、そこでまた京王線に乗り換えて高尾山口へと到着します。
はなから京王線に乗っていけば高尾山口まで乗り換え無しで行けるんですけどね…。
この縦走コースを事前にネットで調べた際、とにかく人気が高く、そして当然人も多そうでした。
たぶん、ケーブルカー乗り場にはずらっと行列が続いているんじゃないだろうか。ケーブルカーは2〜3台は見送らないと乗れないのではないだろうか?
それくらい混んでいるじゃないかと思っていたのです。
そこで今回我が隊は、早朝5:50分に自宅を出発、登山口である京王線の高尾山口駅には7時半には到着して、始発のケーブルカー待ちの行列を横目におもむろに登山道を登り始めるつもりでいました。
それが冒頭の遅れもあり高尾山口についたのは8時過ぎ。でもそこは、ケーブルカー待ちの行列?なにそれ?ってくらい、ひと気の少ない静かな山裾の朝だったのです。
高尾山口に到着した電車から降りた人たちはほとんどがリュックを背負ったハイキングor登山者。改札口のところでざっと見回しても、その数100人もいません。混雑とはほど遠い人数です。当然、その先にはケーブルカー待ちの行列なんてのもありません。
予定では8時始発のケーブルカーが高尾山(山上)駅に着く前に徒歩で登っているはずだったのですが、こうしてすぐに乗れるケーブルカーを目の前にしてしまうと、ここでもついふらふらっと。
ま、遅れた分も取り戻せるし、今日はこれから距離を歩くので体力温存もあっての(あくまで隊長の)選択でした。
ケーブルカーは急斜面を登ること約7分で山上へ。ここで登山靴に履き替え出発準備を整えます。見回せば周りは既に山。俄然気分が盛り上がってきます。前日まで、隊員nの超かゆい湿疹が治らないのと、超混んでるかもの2つの要素が今回の縦走をためらわせたのですが、かゆいの以外はまったくの杞憂でした。
8時30分、我が隊は爽やかな朝の空気の中、まずは薬王院へ向かいます。ここは山中に堂や建物などが連なっています。ここへ参詣したのは初めてですが、すごく楽しそうなところです。お寺に「楽しそう」は無いかもしれませんが、隊員は昔から寺社仏閣の界隈が好きなので、ここでも自然と頬が緩むのです。
隊長と二人、線香の束を求め火を付けてでっかい線香立てに立てます。浅草寺にある線香は煙を自分の体の悪い部分に付けると良いらしいのですが、ここでもそうしてよかったのかな。
本堂のさらに上にあった本社には、壁や欄間に極彩色の彫刻が施されています。あとから来た別パーティーのおばちゃんと「奇麗ねー」「凄いねー」と感嘆しあう隊員n。見知らぬ人であっても登山の格好をしてると誰とでも気軽に話せるのが不思議です。
更に上にある奥社を過ぎると道は石畳から土の道へと替わります。
いよいよ縦走の始まりです。
高尾山と陣馬山を結ぶ縦走コースは屈指の人気コースで登山道も良く整備されており、また、適当な距離毎にポイントとなる山や峠があります。各ポイントには売店やトイレまで設備されちょうどよい休憩地点となっています。
我が隊はまず最初のポイント、城山を目指して歩き出しました。
と、その前に。なぜか最初のピークである高尾山を巻いてしまったんですよね。なんとなく…。
山上から続く道は風もあって涼しく、なにより青空が広がって気持ちいいのなんの。なのに木立が高いので直射日光に晒されるということもほとんどないのです。
途中、見晴らしの良い箇所がいくつかあり、山々の重なりのさらに向こうに青い富士山がくっきりと見えます。しばし見とれるハイカー達。
15分程歩いた一丁平(いっちょうだいら)で最初のトイレ休憩。
隊長が冷えたミカンを渡してくれました。
「うわっ、旨い!、ミカンがこんなに旨い!」
酸味と甘みと水分がギュイーンと喉を通過していきます。毎度書いていますが、山上ではとにかく食べ物の味が10倍増になるんです。
なおも樹々の間に続く尾根道を軽快に歩いていきます。登山では基本的に下(足許)を見て歩きますが、時々立ち止まって見上げる空が青い!東京の外れに来るだけで、おおって思えるくらい、青い。
一丁平からすぐの所に立派な展望台が拵えてありました。ここから見る富士山が前よりもさらに奇麗。
雪のない青々とした見事な三角形を前に両名ともしばし感動に浸っています。
特に隊員nは、以前から富士山を見ると無性に感激するたちだったので尚更。あやうく泣きそう。
まわりを見れば、もうすでにお弁当を拡げている人たちもいます。
ほどよく疲れた頃、城山に到着。
隊員はさっそく売店へと急ぎ、冷えたスポーツ飲料を買って即をグビグビグビッ。
隊長はかき氷を買っています。一口貰いましたが山上で食べるかき氷もこれまた旨い。
で、小腹もすいてきたのでおにぎりを食べたくなった隊員、250円のなめこ汁も買ってきます。
おにぎりの海苔の香りと梅干しの酸味、それになめこ汁の塩気が旨くてたまらない!
ところで隊員のリュックには自宅で凍らしたジュースと水筒の水1リットル。同じく隊長もジュースと水筒を詰めて来ていました。二人合わせて約3kg。
この先も途中の売店に寄るたびにペットボトルの水やジュースを買えたので、リュックの中には500mlのペットボトル1本があれば済んだのかもしれません。デイパックなどの軽装の人たちは、それと雨具程度しか詰めていないようでとても軽そうに追い越していきます。
毎度のことですが我が隊はそれぞれ40と55リットルのザックになんやかんや詰め込んで、これが重いのなんの。
しかし隊長は、「訓練だから」と一言。
城山では鉄板焼きをやっているグループもいました。盛大に煙を上げながら、旨そうな匂いをあたりに振りまいています。
隊員はもう目が点です。「肉と鉄板背負って上がって来たんか!」
こっちはまだまだ訓練が足りないっすね。
城山から少しくだるとほの暗い木立の中の小仏峠へ。この下には小仏トンネルが通っています。
昔の人はここを越えて、武蔵と甲斐の国を行き来していたんですね。
一瞬だけそんな感慨にひたりましたが、峠を過ぎれば道はすぐ登りになったのですぐにそんな余裕はなくなります。
今回一番きつかった箇所がこの峠から景信山(かげのぶやま)まで続く登り道です。といっても過去二回にくらべればそれほどでもないきつさです。
一番最初の高川山では、十歩歩いては立ち止まりゼーハー、
次の伊豆ヶ岳・子の権現では百歩歩いてゼーハー、
で、今回。三百歩は立ち止まらずに行けたはずです。
隊員は、俺も少しづつ山に慣れて来たのかなと少し得意になっていました。
一方、隊長はその頃大変な問題を抱えていたのです。
城山で食べたかき氷でお腹を冷やしたのか、HPP(腹ピーピー)状態。
そうとは知らずに得意になってのんびり歩いている隊員に構っていられなくなった隊長、
「先に行ってるから」って一言を残してからピューっ、と。
「は、早い!」
あっという間に見えなくなってしまいました。
隊員が景信山までえっちらおっちらとやっと登り切って広場を見上げると、そこには先行した隊長が。
「あー、私のザック持ってて」
で、またピューっと。
隊員の到着を待たなくとも空いてるベンチにザックをおいて先に済ましてくればいいのに、先に行った意味ないじゃんと思いつつも、隊長の切羽詰まった事態をようやく知る隊員でありました。
すっきりした隊長も戻りとりあえず一安心、給水しながらこの景信山からの眺望を楽しみます。
視界の右には今歩いて来た高尾山〜城山〜小仏峠がぐるっとパノラマ状に繋がっており、確かに歩いたんだなってことを実感させてくれます。
その奥のもっと遠くには丹沢の山塊もくっきりと見えます。
そして左に目をやれば下の方遥かに八王子の市街地が白く光っています。
ベンチに寝っ転がれば頭上を覆う緑の葉と真っ青な空、高尾山から連なる濃い緑、その先の透明な青い丹沢。
これだけでもう充分満足です。
この絶好の場所で昼食にしたかったのですが、隊長はいまいちお腹の調子が戻りません。それなら次のポイント、明王峠(みょうおうとうげ)まで脚を伸ばし、そこで食べようとなりました。
景信山から明王峠の間は今回の縦走中、一番距離があります。ただほとんどが尾根を行くのでアップダウンもあまりなく、がんがん歩いていけます。幾つかの小ピークにもすべて巻き道がついており、先頭に立った隊員は必然的に楽をしようとそちらを選んで歩きます。
巻き道は左側が杉の植わった深い谷で日も射さずやや暗いのですが、常に涼しい風が吹き上げ、また土の匂い、あるいは山の匂いが濃く漂い、思わずうれしくなって足取りも軽快になります。
行き違う人もぐっと少なくなりました。出だしの高尾山あたりでは、すれ違う人・追い越す人ともに、ただの過ぎ行く人たちだったのが、もうこの辺りではみんな山の挨拶をかわしながらの一瞬の出会いになっています。
時には隊長が「楽なのばかりでは駄目だから」とピークへも登ってみましたが、特に眺望が良いわけでなく風もないので、次からはまた巻き道になってしまいます。
この区間はほとんど休まずにとにかく歩き続けました。というのも区間の後半から隊長のHPPがまたしても…
13時44分、コースタイムより10分も早く、超初心者n隊員にしては快挙ともいうべき偉業を成し遂げた我が隊は無事明王峠へ到着。
隊員は待ちに待った昼食、隊長は待ちに待った手洗い?とおもったのですが、何だか大丈夫みたいって。
ということでやっとここで、キュウリと生ハムとチーズの登場です。それらをおかずに食べるおにぎりが、ホントに旨い!
これまでの城山や景信山と違って、狭く、また人も少ない明王峠は静かなちょっと渋めの所。さっきまでの賑やかな休憩箇所が遠い昔のよう。
のんびりと食事をとり足を休めます。一段落ついて時計を見れば2時半です。
コースタイムに依るとゴールの陣馬山までは片道1時間とあるので往復して戻ってくれば4時半。で、ここから下界の相模湖駅までは1時間半とあるので、駅着は6時の計算。さすがに6時では暗いだろうということで、協議の結果ここであっさり下山することにしました。
陣馬山からは1時間程くだればバス停に出るのですが、隊員は時間の分からないバスを避けて中央本線の駅へ向かいたかったのです。
隊長はお腹の調子を気にしつつ下山の支度をします。隊員はこの峠に着くあたりから膝に嫌な感じがありました。
相模湖側への下山路は階段で始まっていましたが、最初の一歩目をくだった瞬間からズッキンと。
あちゃー、また左膝がおかしい…。この痛みは、降りれば降りる程ひどくなり、とうとう膝を曲げられなくなります。
途中、伐採で落ちていた手頃な枝を見つけて杖代わりとし、この杖に頼ってなんとか降り切りました。この枝がなかったら本当にたどり着けたかどうか。とくに階段状の下りになってからは無くてはならぬ、命の恩人のような枝だったのです。
あまりに感激したので持って帰って家宝にしようと思いました。
しかし隊長は、「山のものは山に置いてけ」と一言。
降り切った所に在ります與瀬(よせ)神社のわきに勝手に奉納してきたのでした。
降りる途中では隊長のHPPにまつわるつらく悲しい話もあったのですが、それはおいといて、とにかく「無事」下山完了。
夕暮れ時の相模湖駅ホームには臨時のホリデー快速が停まっています。
最後尾の指定席車両だけが空いていたので、車内発券してもらいあとは新宿まで1時間弱の距離。
隊員「結局さあ、今回はタイトルにもなった高尾山と陣馬山て登らなかったよね、俺達」
隊長「ほんとは隊員を明王峠に残して、私だけさっと陣馬山往復してこようと思ったけど」
隊員「えっ!」
隊長「でもPPだったからね」
隊員「そだね…。ピーピーだったしね…」
うーん、恐るべし隊長。
ホリデー快速は小仏トンネルを軽快に走り抜けていきます。
(2009.9.15隊員n記す)