n2山岳隊 が行く!

姫神山(ひめかみさん)

2009年9月20日

城内登山口(9:10) ── 姫神山(11:00〜12:00) ── 城内登山口/下山(14:35)

隊員は出発直前まで迷いに迷っていました。
姫神山に登るか、それとも秋田駒ヶ岳に登るのかを。

5連休となった秋のお彼岸、n2山岳会は岩手県へと遠征します。隊長の実家へと帰省したのです。
ここをベースに登山計画を立てました。
幾つかの候補から、隊長は秋田駒ヶ岳を推します。前に登った経験があり、その時の素晴らしかった感動を隊員にも味合わせたいからと。
隊員はネットで調べた姫神山に登りたいと思っていました。前回の高尾山〜陣馬山縦走で楽をしすぎた反省から、もっとしっかり山に登ってみたいと考えたのです。

二つの山を簡単に紹介すると…

【姫神山】
盛岡市の北北東にきれいな三角錐を見せる独立峰。標高1124m。
いくつかある登山口はどれも、ひたすら頂上を目指して登る一本道。
頂上からは全周360°の眺望が最高!

【秋田駒ヶ岳】
秋田県との県境に幾つかのピークを有する高原地帯。最高峰の男女岳(おなめだけ)で1637m。
麓の温泉街から八合目まで連絡バスで上がることができます。
湿原とピークを巡る縦走路が最高!

隊員も、高原の縦走コースに惹かれ、今回は姫神山をあきらめて秋田駒ヶ岳に行こうと一旦は決めました。
しかし、隊長の実家に着くと、隊長の隊長、即ち大隊長も登場して近い方の姫神山にしろと横から言いだします。三人が好き勝手にしゃべって事態は収拾のつかないカオス状態に。
結局どちらに登るかを決めないまま就寝したのでした。枕元には秋田駒ヶ岳の地図を拡げたまま…。

翌朝、出かける時点であっけなく行き先が決まりました。
今日登るのは姫神山です。秋田駒ヶ岳へ行くには出発時間が遅すぎでした。
電車で行く登山だと、発車時間があるのでキビキビと動くのですが、それがない車だと、どうしてものんびりしがち。これは今回の反省点です。

登山口にある案内図

さて、長い前置きになってしまいました。
車で行くには東北道を渋民インターで降り、国道4号線が渋民バイパスと啄木記念館方面を分ける交差点を右へ曲がります。しばらく道なりに進めば「城内小学校→」の看板が有るのでそこを左へ。
ここからは「姫神山登山口」の看板の指示通りに道を曲がっていけば、やがて登山口へと続く林道へやってきます。
家を出る頃から曇り空だったのですが、山の麓のこの辺りではじっとりとした雲はさらに低くなり、数十メートル上も見えません。雨が降り出したらこの林道、ぬかるんで脱出できなくなるんじゃないの?なんて不安がよぎります。
林道の終点、採石場に面した城内登山口に着き、雲の動きや気圧を見てみますが、うーん、何だか晴れそうに無いような。
隊長と、途中で降り出したらその時点で引返すことを確認し、念のため雨具を着込んでの出発となりました。

低く雲がたれ込めた登山口

ここは深い森の中へ入って行くような登山道です。隊員はこういう入り方は大好きです。林道が尽きそこからいきなり急登が始まる登山口だと、その時点で引返したくなります。

この城内登山口、登りはじめの数分は緩い勾配を、それこそゆるゆると登って行きます。
出だしの1時間は決して無理をせず、身体と筋肉を暖めるための準備運動と捉えること。ここでハーハーと大きく息をするようだと、後ですぐにバテてしまう。その場合はもっと歩く速度を遅くすること。
これが過去3回の山行でなんとなく掴んだ、自分用のコツみたいなものです。
今回を含めたった4回しか登っていないのに、もう偉そうに語ってます。
もっともこのくらいの内容はどの登山入門書を見ても書いてある、基本中の基本だっのですが…。

ただコツを掴んでも実践するのはむづかしい。
緩い勾配だったので、ついつい大股になって歩いてしまうんですよね。

飲めない清水

「飲めません」と注意書きのある清水神社の湧き水を過ぎたありから、登山道はぐっと急に。
傾斜がきつくなれば汗も吹き出てきます。着込んだ雨具が暑くなったのでこれを脱ぎ、それからしばらく登れば今度は長袖シャツが暑くなりこれまた脱いでと…。
身軽になってからはきつくなっても立ち止まらず、ゆっくりでもいいからとにかく脚を前に出し歩くよう自身を叱咤激励します。こうしてやっとバテること無く、どうにか歩を進められるようになったのです。

疲れた隊員n

登山をする前までは、自分の体を甘やかしてたなあ、などと考えながらえっちらおっちら登ってくる隊員n。黙々と登る最中に、人はいろいろなことを考えるのです。

そうやって勾配を1時間ほど登った頃、隊長から「そろそろ休憩しようか!」と、うれしいお言葉が。
待ってましたと少し平らな場所でザックをおろし配給のマドレーヌを一口サクッ。「甘くて美味い〜」つい、もう一個を要求してしまいます。
一番最初の登山では、5分歩くごとに10分は休憩しないともう先へ進めない隊員でしたが、随分と進歩したものです。人間の身体は慣れるものですね。

お八つを食べゆっくりと水を飲んでいると、下から熊鈴の音とともに賑やかな声が近づいてきました。
若いお母さんに二人の娘さんで、家族での登山のよう。下の子どもは中学生くらいかな。休憩する我が隊の横を颯爽と登って行きます。
こりゃあ子どもには負けられんばい!と、そのあとを追って出発した我が隊でしたが、結局山頂まで追いつけませんでした。恐るべし、岩手の中学生。

ところで、このパーティーが城内コースで出会った唯一の登山者でした。山の反対側の一本杉コースと違いこっちはあまり人気が無いようです。なかなか良いコースだと思うんですが、麓の登山口までの道が分かり辛いからでしょうか?

ダケカンバの樹林 足元にあった一足早い紅葉

この休憩地点から先はずっと緩やかになりました。
ここまで登れば空気もかなり涼しく快適です。
陽は射さずともダケカンバの自然な樹林が美しく続き、気持ちのいい稜線歩きのよう。
途中、いくつかの奇岩が現れ始め、その度に写真を撮る隊長と隊員。自然の造形の面白さに感嘆しながらの、のんびりとした登山もいいものです。
そこからもうひと登りしたあたりで樹高が低くなって来ていると隊長に教えられます。もうまもなく森林限界を越えるそうです。でも樹々の間から見える空はまだ真っ白なのが残念。つづけて隊長は、ガスが上がって来ているみたいだから、じきに晴れるだろうとも予想します。
山のことを知ってるベテランぽいです、我が隊長は。というか隊員nが知らなすぎです。

そろばん玉のような笠石

自然の妙です。こんなでっかいそろばん玉がつっかえの石にひっかかって浮いています。隊長はここは火山だったので、噴火した時に飛んで来たのだろうと言いましたが、後で調べたら、長い間に浸食されて出来た山でした。隊長は時々、自信たっぷりにいい加減なことを言います。

この姫神山は花崗岩でできた山で、高度を上げるほどに剥き出しの岩が多く見られました。いよいよ身体の暖まった隊員はリズミカルに岩の間を登って行きます。こういう岩の登りって好きだー、なんて思っていると、ずっと上の方から先行するファミリーの歓声が聞こえてきます。「うわーすごー、きれー」
おぉ、あの家族は頂上に着いたのか?
こちらも気がはやって、登る速さも自然とアップ。
そして、高めの岩に大きく踏み込んでぐっと身体を持ち上げた瞬間、隊員はついに樹々の高さを越えたのです。
巨石がゴロゴロする頂上直下へ出たのでした。

あたりは白いガスがかなりの速さで流れていきます。
気温も一気に下がりました。

岩の重なりを乗り越えゆっくり歩くこと50mほどでしょうか、
ついに頂上に到着です!
登りきった達成感と、一面のガスで何も見えないというガッカリ感、そして冷たい風で汗が急速に冷えていく冷え冷え感、いろんな「感」がつまった「感」慨深い登頂の瞬間です。

頂上は風の強さからTシャツ1枚でいることができずに、雨具にウインドブレーカーにと、次々重ね着をしてしのぎます。
はるか東の太平洋上にある台風の影響で、北からの風がもの凄い速さで雲を流して行きます。
下界は未だ白いガスの中ですが、空には所々青い部分も見え始め、晴れへの期待をいだかせます。

ガスがかかっていた山頂

頂上に着いた頃はまだ雲が覆っていました。

登頂すれば次は楽しい食事の時間ですが、今回は冷やしたジュースがあまりにも冷たい!身体が冷える!
隊長お手製のおにぎりに、今回は大隊長謹製の卵焼きもついていますが、おにぎりを持つ手も冷たい!9月に手がかじかむなんて隊員にとっては初体験で、もっと寒くなったらどうするんだろう、手袋した手でおにぎり掴むのってなんかやだな、なんて思いながら、それでも旨い旨いと喰らいつきます。
隊員は震えながらも食欲だけは普通にあり、みそ汁とか熱々のコーヒーが欲しいね、なんて言いながら平らげたのでした。

ポーズを決める隊長

ポーズを決めています。背景の雲がかかっている高い山は岩手山です。隊長にとって久しぶりの故郷の山だったので、しみじみと思うところがあったそうです。

山頂から南側の眺め

雲がなければ、この真南の方角に早池峰山(はやちねさん)も見えたであろう、とのことです。上の写真の岩手山と早池峰山、そしてここ姫神山は恋の三角関係なのだそうです。山の世界も複雑ですな。

我が隊が到着した頃、頂上には数人の登山者がいましたが、眺望の無さにがっかりしたのか、ほとんどの人たちが早々に下山して行きました。
我が隊は隊長の晴れるであろうの予想を信じ粘ること数十分。
白一面だった世界は徐々に色を取り戻しはじめ、ついには360°に渡っての絶景が目の前に現れました。
これぞ待ちに待った一瞬!心行くまでこの光景を堪能し、そしてまた写真にも収めます。
晴れ渡った山頂へ、カップル、グループ、家族、単独行と次々に人が登ってきます。
みな、この光景を前にし一様に歓声をあげます。
どの顔もみな笑顔。
なんだかこっちまでうれしくなって、やっぱり姫神山に登って良かったなって、つくづく思いました。

sanchou.jpg 登山口から仰ぎ見た姫神山

下山後、ほんの数時間前まで低く雲がたれ込めていた登山口も青空に照らされています。
大きな壁のように聳える樹々が風に揺られて、何とも言いようのない気持ちの良い音を立てています。
「ここにずっといたいなぁ」
なにか不思議な力に惹かれるようにそんな呟きがでます。
視線を上げればいま登ったばかりの頂上がそこにありました。

(2009.9.22 隊員n記す)

風と森