ストックも買った、膝のストレッチにトレーニングも(2週間弱ですが)やった、O脚を直すために日頃の歩き方も意識して変えた、より軽い低山トレッキング用の靴とザックも買った等々、膝痛への準備をそれなりに整えて臨んだ大岳山。
隊長が言う「登った分をちゃんと下山すること迄を含めて登山なんだよ」
膝痛を克服して計画通り下山し、そうしてこの言葉を完遂するために我が隊は今回、大岳山を目指したのです。
奥多摩駅を出発し、鋸山(のこぎりやま)、大岳山、御岳山(みたけさん)、日の出山(ひのでやま)等のピークを踏み、長駆武蔵五日市駅まで歩こうという我が隊にとってハードな縦走計画は、総歩行距離22km、コースタイム約10時間の行程です。
出発前、隊員は膝痛よりも、奥多摩駅から鋸山を経て大岳山へ至る、通称「鋸尾根」を登り通せるかを心配していました。
ガイドブックを読むとこのコースは中級者以上、あるいは健脚者向けと書かれており、初心者隊員を登る前から大いにビビらせていたのです。自分でこのコースを選んだくせにです。
大岳山は標高1266mと高い山ではないのですが、出発地点が310mなのでその標高差は956mになります。
また、登山道は登り一途ではなく、小ピーク毎に一旦降りて再度登り返すことが多く、その分も含めれば累計の標高差は1500m以上になります。
「体力が持つのか?」
前回の姫神山では歩き方を体得したと書いた隊員ですが、それがここでも通用するのかとの不安はありました。
大岳山頂まで行ければその後はくだり基調となり、またその先の御岳山からケーブルカーや、バス道まで降りられるエスケーブルートがいくつもあるのですが、そこ迄はとにかく登り切るしかないのだと。
で、結局の所どうなったかと言うと大岳山までの登りは難なく達成、そして、またもや膝痛が発生したためケーブルカーでの下山となってしまったのでした。
心配していたことと、全く逆の結果になるとは…。
予定していた10月3日の土曜日は雨で中止、翌日に再挑戦となりました。
隊長は3時起床、隊員も3時半に起き出しのそのそと支度をします。今回は10時間の長丁場なのでスタート時間を早くするために早起きをします。
まずはタクシーで未明の中野駅へ。中央線の電車は午前4時台に始発がある中野駅が一番目覚めが早いのです。徹夜明けの人や少数の登山者がチラホラと乗った電車は、未だ暗いなかを立川へ。ここで青梅線の奥多摩行きに乗り換えです。
この奥多摩行きの電車は一輛に10人ほどしか乗っていませんが、そのほとんどが登山者でなんだかこちらの気分も盛り上がってきます。さらに青梅駅の手前で単線になってからは山岳鉄道の趣もただよい始め、鉄オタ的にも興奮度大。
クルマでは何度か来た道ですが、青梅線は初めてだったので、漸く明るくなってきた車窓を眺め続けます。
午前6時51分、奥多摩駅着。
朝靄の中にロッジ風の駅舎が建ちなんともいい雰囲気です。バスを待つ人たちが駅前で時間をつぶしていますが、我が隊はサっと仕度を済ませ、奥多摩交番へ登山計画書を出し、多摩川にかかる橋を渡り(下を見ると怖かった!)、その先の愛宕山公園から登山口へ取り付き、そしていきなりの登山開始。と思ったら、ここで隊長から靴紐を締め直すからしばし待ての指令が出て5分ほど待機。
準備の出来た隊長を待って再度の登山開始となりました。
登山口からいきなりジグザグした急坂を少し登った所で噂に聞く階段が登場します。ネットで事前に調べていたこの階段、188段あるそうです。隊員は実物の急角度で伸びる階段を目の前にして「ここで引返す手もあります」と進言しますが、隊長はあっさり却下。
意を決して粛々と登り始めますが、前夜の雨で石段が濡れているのと、その石段の幅が狭く登山靴が半分しか載せられないが怖い!(もっともこれは隊員の靴が異常に大きいせいもありますが)
息を切らさぬようにゆっくりゆっくり登り詰めれば、五重塔のある広場へと出ました。さらに上には愛宕神社がありますが、ごめんなさい、ここへは参拝せずに脇の道を通り過ぎてしまいました。
一旦、下へ降り麓からの林道と合わさった後、この林道を左へ進みます。
100mほど進んでから鋸山への登山道を再び分けると、ここからまた急な坂をえっちらおっちらと登りはじめたのです。
後半、さらに勾配が急になる素敵な階段!
愛宕神社を過ぎておりた先にある林道との合流点の広場。ここから左へ進むと鋸山への登山口に着きます。それと隊長、帽子脱いでる時に後ろから撮らないで!
先ほどの愛宕山公園からの登り始めだけは、これから先の急登を思って弱気になり「やっぱりオレは登山に向いてないに違いない、引返すなら今だ」とか後ろ向きな考えをしていたのですが、この鋸山登山道をしばらく登ってくると身体が温まって来たのか、それとも前回のあのリズムが掴めて来たのか、歩くのが楽しいぜ!なんて前向きな隊員に変身してます。
今回、唯一と言っていい眺望です。このあと晴れると思ったんだけれど…。
時々ぽつりぽつりと雨の降る中、黙々と登り続けると登山道に岩が多くなってきました。そうして鉄梯子を幾つかと岩場をいくつか登り越せば、二つのかわいい天狗の像が彫られた天聖神社へ着きます。
登山口からここまで1時間15分。雨は止みましたがまだ雲が多い空、でもそれなりに見晴らしが効き、また登りの連続で汗をかいた身体を冷ますのに丁度よく、今日初めての小休止とします。
朝飯を食べてこなかった隊員はさっそく天狗像前の岩に腰掛けて、おにぎりを一つぱくり。
「うまいなぁ」
こんな稜線の静かな場所で腰を下ろし食べるおにぎりの旨さはやっぱり格別。このためだけに登山してもいいと思うほどです。
天狗の像が並んでいます。ここまで、この大きな石を担ぎ上げたのでしょうか?
しかし、そんなのんびりした隊員の横で、隊長の態度が変です。そのへんをうろうろと歩き回り、どう見ても挙動不審。聞けば朝の分がまだだとか…。
登山道とはいえ、ここは神社の境内にあたるのだから、ここじゃあまずいでしょうってことで、おにぎりタイムを早々に切り上げ先へ進むことにしました。
おそるおそる鉄梯子を降りる隊長。濡れていて滑り易いので慎重にくだってきます。
露出した木の根が痛々しい急坂。でも、単純に凄いなぁと感嘆する隊員。
ここからは梯子を使った岩場の上り下りに、露出した木の根がびっしりと絡んだ急坂や、鎖で登る岩壁などが次々と現れ、登っていてもなんだか楽しく飽きません。
特に岩壁をよじ上る所なんて小学生の気分に戻って楽しめます。
そんなこんなで隊員はいよいよ調子も良く、「最初の頃に較べると結構オレも登れるようになったよなぁ」なんて偉そうにひとりごちています。
一番最初の高川山では、ザックの重さで肩や背中が辛くてホントに荷物を放り出したくなったことや、これはヤバいって思う程心臓がバクバクしたことなどを思い出し、ちょっと感慨深いものがありました。
そんな隊員とは対照的に、隊長は今回あまり調子が上がらない様子。
「シャリバテだぁ」と急に立ち止まって、あんぱんを食べること、二度。それに朝が早く寝不足だったのも良くなかったようです。
ただ、出さずにそんなに食べても大丈夫なんかなぁと。
あんぱんを食べる隊長。よく食べ、良く出していました。
岩場の連続を過ぎ両側が深く落ち込んだ痩せた稜線に出れば、鋸山が近いことを予感させます。
急斜面には木があるのでそう怖くはないのですが、それでも立ち止まって覗き込めば「おぉー」ってぐらい深い谷。見上げれば空の青い部分も増えてきました。これだけ揃えば気分も乗らないはずがないですね。
「鋸山 350m」の看板を過ぎたところで、いよいよだなと一安心。そこから少し急坂を登って鋸山頂上へ到着しました。
山頂は杉に囲まれ見晴らしはありません。しかし登山口から続いた急登の連続もここでひとまず終え、あとは大岳山まではなだらかな登りの稜線となるはずです。
登山口からここまで3時間20分。地図によると標準コースタイムは2時間20分なので我が隊は1時間も遅いぞ…。
隊長曰く「ゆっくり登ってきたからね」だそうですが、途中、天狗像のある天聖神社で10分程小休止した他は、数回立ち止まって水を飲んだり、隊長がさっとあんぱんを食べた程度なので、コースタイム+30分位で登ってきたと思ったのにちょっとガッカリ。
ここで後から来た単独行のベテランぽい人が地図を取り出し眺めていたので、何分程で来られましたかと尋ねてみれば、「3時間もかかったんですよ」と、この人自身もコースタイムより40分も遅いのが腑に落ちないようでした。
ということで、かなりの健脚者のペースで設定してるんでしょうね、このコースタイムは。
まあそんなこんなで、ゆっくり歩いたせいもあってか隊員はここまでほとんどバテ知らず。
隊長はというと、あいかわらず落ち着かなくあちこちをウロウロと…。
この先、大岳山荘跡まで行けば洗面所があるはずだからと、山頂での休憩もそこそこに歩き出します。
鋸山山頂からは岩場の急なくだりで、せっかく稼いだ標高を一気に下げてしまいます。いままでならこれで絶望的になっていた隊員ですが、今回は調子がいいのであまり気になりません。
地図によればこの先に2つの小ピークがある他は、ゆっくり登って行くだけです。
気持ちのいい稜線上に時折陽射しも差すようになり、隊長と隊員は、「いいねー」「いいねー」を連発し合います。
(隊長はなぜか途中ですっきりしたので「いいねー」にも実感がこもっています)
このあたりは明るい広葉樹が多く、どんぐりのような木の実が落ちてしきりに音を立てています。乾いた倒木に当たった木の実は、コーンと澄んだ良い音を立てています。またしても隊長と隊員は顔を見合わせて「いいねー!」
2つ目のピークを過ぎると、大岳山からくだってくる登山者と頻繁にすれ違うようになりました。
ガイドブックによると、御岳山→大岳山→奥多摩と歩く逆コースは初心者向けとあり、健脚者向けの奥多摩から登ってきた自分は「うはははは、こっちは健脚者コースを来てるんだよね!」と、変な優越感をもっちゃいます。自分だって超初心者のくせに…。
しかしです、調子をこいてた隊員に暗雲が!このあたりから軽いくだり坂でも膝にズキンとくる、あの嫌な感じが再び襲ってきたのです。
あともうひと登りで大岳山に着くし、そこでちょっと長めに休憩を取って膝のマッサージをすればなんとかなるか?
頭の中でグルグル自問自答しながら歩き続けますが、痛みは徐々に酷くなっていきます。
おまけに空はまた雲が多くなり、それに下の方もガスもかかっているよう。樹々の向こうが白く霞んでいるのは幻想的なのですが、隊長は今回はもう晴れないと予測します。
これじゃあ、なんか力が入らんなぁ。
それまで隊長をリードして(或はしたつもりになって)歩いて来たのに、逆にだんだん隊長に置いていかれる隊員。
大岳山の山頂まであと15分というあたりから始った岩場登りの連続で、すっかり膝に力が入らなくなった隊員は、なんでもない木の根につまずいて転倒してしまいます。
肘をしこたま岩にぶつけてベソをかく隊員。
遥か上から見下ろす隊長。
「調子に乗りすぎた天罰なのかぁ!」
それでも新調したストックに助けられ、脚を引きずりつつ最後の岩場をどうにか登り切ったのでした。
山頂着12時20分。鋸山からはコースタイム+10分ほどで歩けました。隊員の膝の状態を考えればかなりいい方かな、です。
しかし、そんな苦労をしてたどり着いた山頂だったのですが、残念なことに眺望はゼロ。ここは眺めが良いってあちこちで書かれていたので大いに期待していたのですが、ホントーに残念なり。
頂上の少し広くなった所は混んでいたので、端の方、落ち葉が積もっている場所へシートを拡げ座り込みます。
とにかく痛む膝をなんとかしなければいけないので湿布を貼り、ツボをぐりぐりとマッサージ。
しばらくそうやって落ち着いた所でおにぎりタイムです。
今回は隊長愛用のストーブも持ってきて山頂で暖かいものでも食べようか、なんて言ってたんですが、直前になってやっぱり重いから止めたと。
でも持ってくれば良かった。だって寒いんですよ。身体の火照りが引けば陽の射さない山頂は肌寒いくらい。
せめてポットにお湯を入れてくれば、このおにぎりも熱いみそ汁と一緒に食べられてもっと旨かっただろうなぁと、これは次回への課題です。
そんな事を話しつつ、デザートの梨などを食べてさらにマッサージを続ける隊員。
ここでこの先の行程をどうするか検討しましたが、隊長も今回は調子が上がりきらず、隊員の膝も曲げると酷く痛むので、ケーブルカーでの下山、この一択しかありませんでした。
膝を休めるために1時間以上の長い休憩をとってから、ゆっくりと御岳山へ向かいます。
でもこれは失敗でした。長く休んでいる間に膝まわりの筋肉が冷えて固まってしまい、歩き出しが却って辛くなったのです。
ここから御岳山へ通じる登山道のうち、山頂の下のほうにある大岳山荘の建物へ続く急降下の岩場や、その先の登山道が平坦に落ち着くまでの岩場の連続が、この曲がらない膝に酷く応えました。それに、この時間でも大岳山へ登ってくる登山者が多く、サッと動けない隊員は交わすのに難儀しました。
前半までの調子の良かった行程より、こちらの辛かった行程のほうを事細かに思い出せるのは不思議です。
まあでも、あまり痛かったことばかり書いても仕様がないですね。
そういえば、今日歩いたこのコースで山岳耐久レースが一週間後(2009.10.11)にあるそうで、我が隊も練習中のランナーによく追い越されました。
一度、背中の方からフイに「ハッハッハッ」っと聞こえたので、熊かっ!と振り返えれば真っ黒な物体が凄いスピードで近づいてくる!
うわっ!ホントに熊だっ!って0.1秒だけ超吃驚したら、全身黒尽くめのランナーだったことも。
お願いだからもっとカラフルなウェア着て走って!
ストックに頼り切って降りていく痛々しい隊員。
途中、巻き道に咲いていた花。これだけまとまって咲いていたのはここだけでした。登山中に花を見るとなぜかホッとします。
道は鍋割山、そしてその先のロックガーデン方面と分かれてからやっと平坦になり、そうなると痛みも少なくなって、御嶽神社と門前の店が続くところまでズンズン歩いてやって来れました。
近くに展望台があるらしくここで休みを取ろうかと思いましたが、隊長が一気に降りようというのでケーブルカーの駅まで我慢して歩き続けます。
神社からケーブルカー駅まですぐかなと思っていたのですが、1kmほど離れており、さらにくだって行かなければなりません。
隊長の重登山靴は舗装路の歩きが苦手で、隊員もやっぱり下り坂は膝に響くので、またしても「うひぃ」状態。でも、山登りの格好で草臥れているのはみっともないだろうと、意地を張って無理に颯爽と歩きます。見栄っ張りやなー。
ケーブルカーの滝本駅は凄い場所にありました。左が御岳山方面です。
御嶽駅行きのバスを待つ隊長は疲れきって座り込んでしまいました。今回は隊員の方が最後まで元気!
「やっと勝ったな、と思いましたね」(隊員談)
あとは、ケーブルカーで一気に降り、少し歩いて超満員のバスに乗り、御嶽駅でタイミングよく来たホリデー快速に乗り、準備よく缶ビールとつまみを購入して旨そうにグビグビ飲む人をもの欲しげに眺めながら、「いいもん、オレらは帰ってから旨い居酒屋へ行って反省会するからそれまで喉が渇いても我慢するんだもん」と、強がりながらも半泣き状態で無事に帰宅できたのでありました。
反省会での隊長・隊員の感想は「でも楽しかった!」の一言につきます。
膝痛が無ければ、両名とも体力は問題なく、武蔵五日市まで歩けたのにと残念です。
壮大な計画は半分ほどで終わってしまったのですが、でも鋸尾根をバテずに登れたのは大きな自信になりました。
膝は二日経って痛みも無くなったので、さっそく筋肉をつけるトレーニングを開始しました。
「登った分をちゃんと下山すること迄を含めて登山」
今回はケーブルカーの分だけマイナスです。でも大岳山で抜群の眺望を経験したいし、五日市までの行程を歩き通したいし、だからまた再挑戦したいなぁ!
(2009.10.6 隊員n記す)